20221218
ゼロコロナ政策による中国経済への影響
プロロ-グ
パンデミック
2019年12月8日、中国湖北省武漢市で最初の感染者発症が確認された。この事象は、世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルスの集団感染の端緒となった。この動きに対応するため2020年1月23日から武漢市が封鎖措置を実施し、解除する4月8日まで続いた。爾来、感染拡大が確認されれば、直ちに都市封鎖に踏み切った(ロックダン)。
武漢市街地
出典:「写真AC」
ゼロコロナ終焉
当時、武漢では感染者が急増して医療体制が崩壊し、このパンデミックにより3800人を超える市民が死亡したと言われています。当局は2021年以降、市中感染は確認されていないと強調しています。今も感染者が確認されれば対象地域の封鎖と大規模なPCR検査を実施するなど、僅かな感染拡大も許さない「ゼロコロナ」(清零)政策は2022年11月まで続く。
独裁者批判
2022年11月末になると、長く続くゼロコロナ政策への批判が表面化する-上海では「習近平退陣」や「共産党退陣」といったスローガンが叫ばれるようになり、当局側は看過できなくなってきた。「切迫したゼロコロナ」、「白紙」が示す中国人人権意識の顕在化、「政権批判の兆候を見よ」などの動きが顕著となり、中国国内は騒然とする日々が続いた。
感染者まん延
北京市は12月12日、新型コロナウイルス対策の担当者が記者会見し「新型コロナが急速に拡大しまん延している」と警戒感を示した。市内では感染者の急増でPCR検査の結果判明が大幅に遅れる一方、多くの感染者は自ら入手した抗原キッドで陽性を把握して自宅療養するケ-スが相次ぐなど「ウイズコロナ」(共存)への転換に伴う混乱が続いている。12月15日中国、無症状感染者数(コロナ実態把握を放棄)の公表中止。
【新型コロナを巡る経緯】
- 2019年12月8日 武漢で最初の感染症発症
- 2020年1月8日 中国政府が新型コロナウイルスを検出
- 2020年1月23日 武漢市が都市封鎖を開始
- 2020年9月8日 習近平氏、中国政府のコロナ対応の成果を自賛
- 2022年3月28日 上海が都市封鎖を開始
- 2022年11月下旬 北京や上海など各地でゼロコロナへの抗議行動
- 2022年12月7日 中国政府がゼロコロナの緩和策を発表
- 2022年12月15日 中国、無症状感染者数(コロナ実態把握を放棄)の公表中止
(出所)「日本経済新聞」2022年12月14日など
現 状
「緩和論争」
怒り心頭
習近平政権の抑圧的な行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策に対する庶民の不満が爆発し、各地の抗議デモは発足したばかりの第3期習政権への衝撃は小さくない。この動きに習政権は緩和の方向へ軌道修正するかに見えるが、現状においては、抜本的な方向転換への選択肢は極めて少ない。
コロナ論争
この機に乗じて、「ゼロコロナ」政策を巡る論争が盛り上がっている。北京大学教授らが政策を緩和して経済活動を優先させるべきと提言すれば、保守派は「過度な開放は大規模感染につながる」と反論。先月下旬に北京や上海などで起きた抗議デモを機に政策緩和に伴う混乱が各地で起きる中、国内世論もゼロコロナの是非で揺れている。
学者の見解
梁建章北京大学教授ら6人本年12月3日、コロナ禍の長期化で「中国経済は大きなダメージを受け、特に零細企業や庶民は苦境に陥っている」として、優先的に経済活動を再開させることを提言した。来年成長目標を「5%以上」に設定して、「経済活動を開放するという明確なシグナル」を出すべきだと訴えた。
梁氏は大手旅行サイトの創業者で、連名者には中国人民銀行の通貨政策委員会を勤めた経済学者も。ネット上では「ゼロ(清零)」に加わり、「中国共存」(中国式ウィズコロナ)という呼び方も出始めた。反面、保守派の論壇サイト「崑崙策」には、政策緩和が「防疫を諦めた」。
「寝そべり族(躺平主義)の人民に対して無責任だ」(中国において若者の一部が競争社会を忌避する人々)香港や台湾の状況から中国での1日当たりの死者を2千数百人と推測して政策緩和(その影響を)楽観し過ぎている」とした分析のほか、新型コロナは海外勢力による「生物攻撃」でPCR検査は「最後の防壁」という陰謀論めいた主張まである。
アドバイス
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者郭台銘(テリ-ゴウ)氏が中国指導部に対し、新型コロナウイルスを徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策の緩和を求める書簡を送っていた(12月8日)、米紙ウォ-ル・ストリ-ト・ジャ-ナル(WSJ)が報じた。共産党が統制を強める中国で企業経営者が意見を直接表明するのは異例である。同社の中国内主力工場の運営に支障が出たためで、行動制限を緩める必要性などを訴えた。
コロナと中国経済
経済減速
中国税関総署が12月7日発表した11月の貿易統計(ドル建て)によると、輸出は前年同月比8.7%減の2960億9000万ドル(約41兆円)で、マイナスは2カ月連続であった。香港メディアによると、マイナス幅は新型コロナウイルスの感染が中国国内で初めて拡大した直後の時期にあたる2020年2月以来の大きさであった。
歴史的なインフレや米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げの影響で景気減速懸念が強まる欧米向けの落ち込みであった。一方、輸入面も10.6%減の2262億5000万ドルとマイナス幅が拡大、感染拡大を徹底的に食い止める「ゼロコロナ」政策に基づく移動制限の影響で内需が急激に弱含んでいる。
輸出入総額は9.5%の減速。輸出は10月(0.3減)からマナス幅が大きく拡大した。国・地域別に見ると米国向けが約3割減少した。EU向けも約1割減少した。欧米の需要低迷に加え、輸出基地である広東省などでコロナ対策が強化されたことにより、製造、流通が滞ったことも響いたようである。輸入面も、10月(0.7%)から急速に悪化した。ゼロコロナ政策の影響で防疫措置が強化されて消費が悪化したほか、工業生産にも影響を与えており、デジタル製造などに欠かせない集積回路(IC)は約3割落ち込んだ。
経済的影響
GDP比25%
野村ホ-ルディングス傘下の野村国際(香港)は11月28日、中国の国内生産(GDP)の約25%が、ロックダン(都市封鎖)など移動制限の影響を受けているという試算示した。上海市が封鎖されていた4月を上回る水準といい、影響が中国本土に広がっていることが分かる。北京市でも11月に入って感染拡大が続いており、出勤や通学が制限され、多くの飲食店が休業を余儀なくされた。
日本商会の動き
中国の庶民だけでなく外資企業も不満を増している。在中国の日系企業でつくる中国日本商会11月11日、移動規制が合理的でなく事業活動に悪影響がでているとして、北京市政府に制限緩和を求める要望書を送った。商会は10月下旬に会員企業550社超にアンケ-トを実施し、約88%の企業が「北京の移動制限措置は合理的でない」と回答。従来規制で「事業活動に悪影響がある」と回答した企業は約96%に上った。首都北京の防疫体制は特に厳しいことで知られる。
北京
出典:「写真AC」
EU商工会議所の動き
在中国の欧州連合(EU)商工会議所は11月下旬、「防疫20条」に関する意見書を中国商務省に提出。同会議所は「中国全土の各省で(防疫対策の)実行に一貫性がなくなった」と問題点を挙げた。一部の地方政府が口頭など非公式ル-トを通じて操業停止を求めるようになっており、中国事業の「不確実性」が増したと訴えている。
垂水駐中国大使
垂秀夫(たるみ)駐中国大使も11月28日、日中の経済関係者による会合にビデオメッセ-ジを寄せ、「この3年間の日本の対中投資は顕著な減少傾向にある」と述べた。中国が続ける移動制限が日本企業の中国事業に影響を与えている懸念を表明。北京から他省に出張した駐在員が移動制限のため1カ月以上も戻れなかった例もあると問題視した。
習近平指導部
最適化
中国も国内外からの批判を意識している。習指導部は11月10日、ゼロコロナ政策の継続を表明する一方、対策を「最適化」するよう指示。中国政府翌11日に「防疫20条」などと呼ばれる新たに防疫措置を発表し、個別の事情を踏まえない「画一的な対応」を是正する方針を示した。
コロナ対策を担う孫春蘭副首相は今月1日、防疫措置について、「対策をさらに適正化する条件がそろった」発言。ゼロコロナ政策の緩和をさらに進める姿勢を示した。ただ、中国は地方医療体制が不十分で、予防効果が高いとされる海外製ワクチンも使っていない。
そうした中、どのようなに緩和を進めていくかは不透明な部分もある。中国防疫措置に詳しい北京の外資企業幹部は「ゼロコロナ政策は本来、ワクチン接種を進めて十分な免疫を得るといった時間稼ぎには有効だったが、中国はこの間、自国の防疫措置の宣伝などに力を入れるばかりだった」と指摘する。
局面打開
緩和策
国営新華社通信は12月7日、中国共産党が6日に政治局会議を開き、来年の経済課題を話し合ったと伝えた。習近平総書記(国家主席)が主宰した同会議は、感染対策の「最適化」を指示(ゼロコロナの緩和策を発表)。厳格な感染対策が景気を減速させていることへの危機感が大きいと見られる。
同会議では「積極的な財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施する」と従来の方針を維持、国内経済の悪化を踏まえ、「高水準の対外開放を推進する」として外資企業の誘致を進める考えを示した。急展開した「ウィズコロナ」への適応を余儀なくされた市民の間には混乱や戸惑いが広がる。向後、急激な感染拡大が起きる恐れもあり、一説には200万人が罹患する恐れがあるという。
(現場混乱)
感染対策の“最適化策”を講じることが決まった。この背景には「ゼロコロナ政策」に対する抗議デモ後に、新型コロナウイルスの防疫対策を“自分で身を守る”方針に急転換したことで、現場が混乱している。感染者が増加してPCR検査や薬の調達の準備不足が表面化している。政府は12月8日、感染者の自宅治療の手引きを発表し、解熱剤や抗原検査キットの調達を呼び掛けた。
しかし、薬局では薬が売り切れ、価格が高騰。「感染を隠す可能性がある」として薬の販売を規制してきたためだ。店内飲食を再開した北京市の飲食経営者は「いざ再開すると誰も来ない。薬が手に入らないので、外出を恐れている」と語る。近所で陽性者が出た同市の女性は、抗原検査の陰性結果が出るまで自宅隔離を求められた。団地の半分以上が感染し「現場の管理が追い付かない」と発言。
市民の意識転換も追いついていない。北京市は新たに11カ所を新型コロナ対応病院に指定したが、交流サイト(SNS)によると、地元住民は陽性者を受け入れないよう病院に抗議したという。国営メディアは「オミクロン株の発病率は明かに低下した」と宣伝を強化するが、ネット上では「恐怖を植え付ける宣伝が市民に染めついている」との投稿も見られる。中国の保険当局は7日の記者会見で、大幅緩和策について「(政府が)主導的に行う合理化策である」と強調した。しかし、方針転換の実際の理由が11月下旬に各地で相次いで抗議デモや、ゼロコロナに伴う経済への打撃であることは明確であることは間違いない。
市民の抗議
中国当局の鉄壁な「ゼロコロナ」施策に対して、11月28日まで北京市を含む中国各地の抗議活動は“燎原の火の如く”広がった。インターネット上の情報によると、全国で31ある省・自治区・直轄地のうち約半数で落書きなどを含む抗議活動が起きた模様である。20年6月に香港国家安全維持法(国安法)が施行され、反中でもが抑え込まれた香港でも28日までに香港大学や香港中文大学などでウルムチ市の火災の犠牲者を追悼する活動が行われ、学生らが中国の地図を黙って掲げたり、白い紙を配ったりした。
北京での抗議活動は、日本大使館にも近い場所で行われた。数100人が抗議の意思を示す白い紙を手に持ち、「PCR検査は不要だ」などに声を上げた。「個人独裁」を批判する声も出たという。上海でも26,27両日に感染対策を批判する集会が行われ、「共産党退陣」といったスローガンも叫ばれた。民主化を求められる学生らが武力鎮圧された1989年6月の天安門事件以降で最も大規模な政策批判の抗議活動との見方もある。英国BBC放送によると、11月27日に上海の抗議活動を取材していたBBC記者中国当局に一時拘束された。中国側から説明や謝罪はないという。
上海でのPCR検査
出典:「NHK」
感染爆発
ゼロコロナから緩和へ急転換した中国で、死者が急増しているという。その背景には中国政府がワクチン接種や医療資源の準備が整わない見切り発車したのが原因で、死者が今後、最大で100万人超えるとの見方もある。来年の経済運営を決める「中央工作会議」は低迷した景気回復を優先課題と決めたが、足元の感染爆発が経済を直撃している「東京新聞」2022年12月18日。
中国メディアによると、北京市の感染拡大により、「人民日報」の元記者が陽性になった後に死亡。手術の後遺症あり、集中治療室(ICU)で治療受けたという。37歳だった元プロサッカーの選手の王若吉さんも感染による糖尿病の悪化で亡くなった。台湾メディアによると、北京市内では急増する死者に死葬場が対応しきれず、周辺に遺体を乗せた車列ができているという「東京新聞」2022年12月18日。
エピロ-グ
習近平指導部(共産党)は約3年近くゼロコロナ政策を続けてきたが、しかし、執拗な“コロナウイルスの影響は中国経済の悪化を誘引した。中国国民は諸外国の情報などを入手して、ウイズコロナ以外に方策がないことを十分知っていった。
ウイズコロナ政策を実行するには国民に十分な検査キッド、医薬品(解熱剤など)を十分に持続的に供給することに力点をおかなければならない。これを疎かにしたならば、国民への十分なコロナ対策とは言えない-既述のように中国では感染爆破が起きている。
一説によると、今後、中国では最大で100万人を超える見方もあるという。最近の報道によると、米国では新型コロナウイルスのオミクロン型派生型への警戒感が高まっており、既存ワクチンでは予防困難だという。人間とコロナウイルスとの闘いはエンドレスとなっている。今後、中国の動きには要注意である。
(グロ-バリゼーション研究所)所長 五十嵐正樹
引用資料
- 邦字紙(日本経済新聞/毎日新聞/読売新聞/朝日新聞/東京新聞/産経新聞)の記事、社説などから引用し、作成した。



